「医薬品卸なくなる」というキーワードを見かけて、不安に感じている薬剤師の方もいらっしゃるかもしれません。
私もこの業界の動向に関心があり、色々と調べてみました。
医薬品卸がなくなるかもしれない理由として、Amazonの参入やAIによる業務代替、メーカー直販の動きなどが挙げられています。
これらは、なぜ今「卸の危機」が叫ばれているのかを理解する上で重要なポイントです。
「本当に卸はなくなるの?」
「もしなくなったら、私たち薬剤師の仕事はどうなるの?」そんな疑問や不安が尽きないと思います。
この記事では、医薬品卸がなくなるという説の真相、そしてこの大きな変化が薬剤師の未来にどのような影響を与えるのか、私が調べた情報を分かりやすくまとめています。
記事のポイント
- 「医薬品卸なくなる」と言われる具体的な理由
- 卸が生き残りをかけて進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実態
- 卸の変革が薬剤師の業務(対物・対人)に与える影響
- これからの時代に薬剤師が取るべき戦略的アプローチ
「医薬品卸なくなる」説の背景

「医薬品卸がなくなる」と言われ始めた背景には、無視できないいくつかの大きな要因があります。
経営環境の悪化から、外部からの破壊者(ディスラプター)の登場まで、卸が直面している危機を具体的に見ていきましょう。
医薬品卸がなくなる理由とは
「医薬品卸がなくなる」と懸念される最大の理由は、従来のビジネスモデルが限界に来ているからです。
薬剤師の皆さんにとって、卸は日々の医薬品を届けてくれる重要なパートナーですよね。
しかし、その経営は今、非常に厳しい状況にあります。
度重なる薬価改定で薬価差益(仕入れ値と販売価格の差)が縮小し、収益を上げにくくなっているのです。
さらに、後発医薬品の品質問題への対応など、コストは増える一方。
報道によれば、営業利益率が1%を割るという危機的な状況の卸もあるようです。
つまり、「医薬品を右から左へ運んで差益で儲ける」という従来の仕組みが、もう成り立たなくなってきている。
これが「なくなるかもしれない」と言われる根本的な理由です。
経営悪化と深刻な低収益性

前述の通り、医薬品卸の経営悪化は深刻です。
彼らは単にモノを運ぶだけでなく、「物流」「商流」「金流」「情報流」という4つの重要な社会インフラ機能も担ってきました。
卸が担う4つの伝統的機能
- 物流機能: メーカーから仕入れ、薬局や病院へ正確に配送する。災害時の安定供給も含む。
- 商流機能: 多数のメーカーと医療機関の間の複雑な取引を仲介する。
- 金流機能: 代金回収のサイト(期間)のズレを吸収し、医療機関のキャッシュフローを支える金融機能。
- 情報流機能: 医薬品情報や副作用情報をメーカーと医療現場で双方向に伝達する。
これらの機能は年々高度化・複雑化しています。
例えば、厳格な温度管理が必要な特殊薬の配送や、製品回収(リコール)への対応など、業務の負荷は増大しています。
「業務は高コスト化しているのに、収益源の薬価差益は減り続ける」。
この「利益なき繁忙」とも言える構造的なジレンマが、卸の経営を直撃しているのです。
高機能・高コストな物流維持の必要性と、薬価差益縮小による収益悪化。
この二重の圧力が、卸のビジネスモデルを限界に追い込んでいます。
Amazon参入がもたらす影響

この構造的な危機に、強力な「ディスラプター(破壊者)」として乗り込んできたのがAmazonです。
米国ではすでに「Amazon Pharmacy」として処方薬の宅配を行っていますが、2023年には日本市場にも参入しました。
当面は、Amazonが直接販売するのではなく、中小の薬局と患者をオンラインで仲介するプラットフォームを構築するモデルのようです。
患者さんはオンラインで服薬指導を受け、薬はAmazonの配送網で自宅に届く。
これが普及すると、薬局・薬剤師には2つの大きな影響が出ると私は考えています。
影響1:立地の無価値化
従来、薬局経営は「病院の門前」という立地が命でした。
しかし、自宅で薬が受け取れるようになれば、病院の近くに店舗を構える優位性が失われる可能性があります。
影響2:評価の可視化
Amazonのサイト上で、患者さんが薬局や薬剤師のサービス(服薬指導の質など)を星の数やコメントで評価するようになるかもしれません。
つまり、薬剤師の「対人業務」の質が公に比較される時代が来るということです。
もちろん、電子処方箋の普及の遅れなどもあり、すぐに現実化するわけではないという見方もあります。
しかし、「卸を介さない」流通モデルが現実的な脅威として現れたインパクトは非常に大きいと感じます。
AIによる機能代替の現実味

AmazonというEコマースの論理とは別に、テクノロジーによる「機能の代替」も進んでいます。
その主役がAI(人工知能)です。
これまで薬剤師さんや卸のMS(営業担当)さんが、経験と勘を頼りに行ってきた業務が、AIによって自動化されようとしています。
特に影響が大きいのが「在庫管理」です。
AIが患者さんの来局履歴や処方傾向を学習し、未来の需要を高精度で予測。
これにより、不動在庫や期限切迫品を自動で可視化し、発注業務の多くが自動化される可能性があります。
これは、薬剤師の日常業務に直結する大きな変化ですよね。
卸の伝統的な機能であった「物流」や「情報流」の一部も、こうしたテクノロジーに置き換わっていく可能性を秘めています。
メーカー直販の加速

さらに、医薬品メーカー側にも「卸を介さない」動き、いわゆる「メーカー直販」の動きが加速しています。
すべての薬が、卸の「全国一律の安定供給網」に適しているわけではありません。
特に、近年増えている超高額な特殊医薬品が、この流れを後押ししています。
例えば、「ゾルゲンスマ」や「キムリア」といった遺伝子治療薬は、1回数千万円から数億円と超高額です。
加えて、極めて厳格な温度管理やトレーサビリティ(追跡可能性)が求められます。
こうした医薬品では、メーカーは卸を介することで生じる物流コストや品質管理リスクを嫌い、卸を介さずに直接医療機関と契約・管理するモデルを選択するケースが増えているのです。
医薬品卸は、Amazonに「ラストワンマイル(患者への配送)」を脅かされ、同時に特殊薬メーカーに「高付加価値物流」を奪われるという、「二正面作戦」を強いられている状況だと言えます。
「医薬品卸なくなる」未来とDX

では、四面楚歌のように見える医薬品卸は、このまま「なくなる」のを待つだけなのでしょうか。
答えは「いいえ」です。
彼らは今、DX(デジタルトランスフォーメーション)を武器に、生き残りをかけた劇的な自己変革を始めています。
卸がDXを推進する、なぜか

医薬品卸がDXを急ぐ理由は、これまで見てきた「深刻な低収益性」と「外部からのディスラプション(破壊)」という二重の危機から脱出するためです。
従来の「モノ(医薬品)を運ぶ物流業者」のままでは、利益は減り続け、AmazonやAIに仕事を奪われるだけです。
そこで、「データとソリューションの提供者」へと、その存在意義そのものを変えようとしているのです。
大手卸(メディパル、アルフレッサ、メディセオなど)は、IT企業と提携したり、ベンチャーファンドを設立したりと、DXを生存戦略の核に据えて猛烈なスピードで動いています。
経営支援パートナーへの転換

卸が目指している新しい姿は、単なる「仕入れ先」ではなく、薬局・薬剤師の「経営支援パートナー」です。
具体的には、医薬品を供給するだけでなく、薬局経営そのものに踏み込んだソリューションを提供し始めています。
卸が提供する新たなサービス例
- 経営分析: レセプトデータに基づいた経営分析ツールの提供
- 業務効率化: AIによる在庫管理、業務効率化機器の導入提案
- 患者接点のDX: LINEでの処方箋送信やオンライン服薬指導システムの提供
- コンサルティング: 新規開局の支援や経営コンサルティング
これらは、薬剤師さんの日々の業務を効率化し、収益向上をサポートするためのサービスです。
卸は「モノ売り」から「コト売り」へと、大きく舵を切っているのが分かります。
AI在庫管理と流通革命

卸が進めるDXの中でも、特に薬剤師の業務に直結するのが「AIによる在庫管理・需要予測」です。
これは、先ほど触れた「AIによる機能代替」を、卸自身がサービスとして提供する形です。
患者さん一人ひとりの次回来局予測なども含め、AIが発注を最適化します。
これにより、薬剤師さんが「在庫を数えて発注する」という日々の対物業務が、限りなくゼロに近づく可能性があります。
これはまさに「流通革命」と言える変化ではないでしょうか。
卸は、こうしたAIシステムを提供することで、薬局の業務効率化(対物業務の削減)を支援しようとしています。
変わる卸と薬剤師の関係性

DX支援パートナーへの転換は、卸と薬剤師(薬局)の関係性も根本から変えていきます。
従来は、薬剤師さん(特に管理薬剤師や経営者)の重要な仕事の一つに、卸のMSさんとの「価格交渉」があったと思います。
「A社の薬はいくらで入るか」といった交渉です。
しかし、卸がプラットフォーム戦略に移行すると、この価格交渉の重要性は低下していくかもしれません。
なぜなら、医薬品の価格が、先ほど紹介した「AI在庫管理システム」や「経営分析ツール」などのシステム利用料とパッケージ化される可能性があるからです。
「医薬品購入交渉代行」のような専門サービスが登場する可能性もあり、薬剤師とMSさんとの属人的な関係性も、大きく変わっていくことが予想されます。
プラットフォーム化する卸

卸が提供するこれらのDX支援サービスは、実は薬局を自社の流通エコシステムに強固に「ロックイン(囲い込み)」するための戦略的な武器でもあります。
かつては、「A社の薬が安いから」という理由で、卸Aから卸Bに仕入れ先を切り替えることができました。
しかし、もし薬局が卸Aの「AI在庫管理システム」や「LINE服薬フォローシステム」を導入し、日々の業務を最適化してしまったらどうなるでしょうか?
たとえ卸Bが安い価格を提示しても、切り替えるのは困難です。
なぜなら、卸を切り替えることは、蓄積した業務データや患者さんとの連絡手段、経営分析の履歴をすべて失うことを意味するからです。
この「スイッチングコスト」は計り知れません。
もはや卸は「医薬品の価格」で競争するのではなく、「経営支援プラットフォームの利便性」で薬局を囲い込むゲームへと、ルールそのものを変えたのです。
「医薬品卸なくなる」時代の薬剤師

医薬品卸の劇的な変貌は、私たち薬剤師の働き方にも決定的な影響を与えます。
「対物業務」と「対人業務」のそれぞれがどう変わるのか、そして薬剤師に求められる新たな役割について考えていきます。
薬剤師の対物・対人業務の今後
対物業務は「自動化」と「高度化」へ
まず「対物業務」ですが、AI在庫管理システムなどによって、在庫管理や発注業務は限りなく自動化されるでしょう。
薬剤師が「モノを管理する」作業は大幅に減少します。
かといって対物業務がゼロになるわけではありません。
むしろ、より高度な「管理」能力が求められます。
それは、自動化されたシステムを管理・監督する能力です。
どの医薬品をAI管理に任せ、どの特殊薬(ゾルゲンスマなど)を別ルートで厳格に管理するのか。
こうした「業務フローの設計と思考」こそが、薬剤師の新たな対物業務になると考えられます。
「対人業務」はデータ活用の時代へ
対物業務から解放された時間は、必然的に「対人業務」へ振り向けられます。
しかし、求められるのは単に「患者さんに優しく接する」ことではありません。
AIや卸のプラットフォームが提示する「データ」に基づき、個々の患者さんに最適化された「薬学的介入」を行うこと。
これがAI時代の薬剤師の価値となります。
例えば、AIが「副作用リスク高」と予測した患者さんに対し、薬剤師が専門家としてデータを解釈し、「このタイミングで、この内容の服薬フォローを行う」という高度な専門的判断を下し、実行することです。
薬剤師に求められる新たな役割

これからの薬剤師に求められるのは、AIやシステムに代替されない、人間ならではの価値を発揮することです。
AIやシステムはデータ分析や効率化は得意ですが、患者さんの微妙な表情の変化を読み取ったり、不安に寄り添ったりすることはできません。
未来の薬剤師は、AI、卸のプラットフォーム、Amazonといった「ツール」をプロとして使いこなし、患者さんや多職種(医師、看護師など)と直接連携する「薬学的ケアのハブ」としての役割を担うことになります。
AIに代替されない薬剤師の価値
- データ(AI予測など)を薬学的に解釈する専門的判断力
- 患者さんの不安や背景に寄り添う心理的サポート能力
- 医師や看護師と対等に連携する多職種コーディネート能力
こうしたヒューマン・インターフェースとしての価値が、ますます重要になってくると私は思います。
薬剤師が取るべき具体的な対策

では、この大きな変革期に、私たち薬剤師は具体的に何を準備すべきでしょうか。
私が重要だと感じたのは、以下の3つの視点です。
1. DXツールを「武器」として使いこなす
卸が提供するDXツールやAI在庫管理システムを、「仕事を奪う敵」として警戒するのではなく、「面倒な対物業務から解放してくれる武器」として積極的に使いこなす姿勢が不可欠です。
それによって生まれた時間を、より高度な対人業務に充てるべきです。
2. 「新たな対人業務」のスキルを磨く
前述の通り、求められるのはデータ活用能力、心理的サポート能力、多職種コーディネート能力です。
単なる服薬指導にとどまらず、患者さんの生活全体をサポートするような、一歩踏み込んだ対人スキルを意識的に習得していく必要があるでしょう。
3. 経営・SCM(サプライチェーン)の視点を持つ
特に薬局経営者や管理薬剤師の方は、経営視点が必須です。
自局の業務フローや患者データを、どの「エコシステム」(A社の卸プラットフォームか、B社のAmazonか)に乗せるべきか。
これは単なる仕入れ先選びではなく、薬局の未来を左右する戦略的な経営判断となります。
SCM(安定供給)視点の重要性

薬剤師の新たな対物業務として「SCM(サプライチェーンマネジメント)」の視点が重要になると触れましたが、これは「医薬品の安定供給」という薬剤師の根本的な使命にも直結します。
医薬品卸は、これまで日本の医療インフラとして、災害時やパンデミック時にも医薬品の安定供給を支えてきました。
この機能が、プラットフォーム化やメーカー直販によって変質していく可能性があります。
「どの医薬品を、どのルートで確保するのが、患者さんにとって最も安定的か」
AIによる効率化(平時の在庫最適化)と、災害時などの有事の安定供給(SCMの設計)という、両方の視点を持って業務フローを設計・監督すること。
これが、システムを使いこなす側の薬剤師に求められる、新しい「対物業務」の核心だと考えられます。
まとめ:医薬品卸なくなる時代の未来予測

ここまで見てきたように、「医薬品卸がなくなる」というのは、物理的に消滅するというよりも「従来の機能がなくなる(変貌する)」という意味合いが強いことが分かりました。
卸は「物流業者」から「IT・経営コンサル企業」へと生まれ変わろうとしています。
この変化は、薬剤師にとっても大きな「脅威」であると同時に、専門性を再定義する「最大の機会」でもあります。
古い「モノの管理」にしがみつく薬剤師は、システムに代替されるかもしれません。
しかし、AIやプラットフォームを「使いこなし」、データを活用して「ケアを提供する」薬剤師は、未来の医療において、ますます中心的な役割を担うことができるでしょう。
この変化の本質を理解し、自らも学び、変わり続けること。
それこそが、これからの薬剤師に求められる最強の生存戦略だと、私は強く感じています。
【免責事項】
この記事で紹介した情報は、私が独自に調査した時点での見解や一般的な目安を含むものであり、特定の企業の経営戦略や将来の動向を保証するものではありません。
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