薬剤師として働きながら、「管理栄養士」という資格が気になっている方はいませんか?
私も以前、患者さんから「この薬を飲みながらグレープフルーツは食べてもいいの?」と聞かれたとき、薬と食事の関係をもっと深く語れたらなあと感じたことがあります。
それが、管理栄養士という資格に興味を持ったきっかけのひとつでした。
薬剤師と管理栄養士のダブルライセンス、この2つの資格を持つことで何が変わるのでしょうか。
どうやって取得するのか、どんなキャリアが開けるのか——この記事では、そのすべてをまとめてお伝えします。
記事のポイント
- 薬剤師が管理栄養士を取得するための具体的なルートと受験資格
- ダブルライセンスがもたらす現場での強みとキャリアへの影響
- 調剤薬局・病院・企業など、活躍できる就職先の全体像
- 取得の難しさと、それでも挑戦する価値がある理由
管理栄養士ってどんな資格?

まず、管理栄養士がどんな資格なのかを確認しておきましょう。
薬剤師の方でも、意外とよく知らない部分があるかもしれません。
栄養士との違いを理解しよう
「栄養士」と「管理栄養士」は、似ているようで異なる資格です。
ざっくりまとめると、こんな感じです。
| 項目 | 栄養士 | 管理栄養士 |
|---|---|---|
| 資格の種類 | 都道府県知事が認定 | 厚生労働大臣が認定(国家資格) |
| 主な仕事 | 健康な人の栄養管理・給食運営 | 傷病者・高度な栄養管理・指導 |
| 養成課程 | 栄養士養成施設(2〜4年) | 管理栄養士養成施設(4年)または栄養士として実務経験 |
| 国家試験 | なし | あり(国家試験に合格が必要) |
管理栄養士は、傷病者(病気を持つ方)の栄養管理を専門的に行える、より上位の資格です。
薬剤師と相性がよい理由のひとつは、この「医療現場での活動」という共通点にあります。
管理栄養士は「コメディカル」(医療専門職)の一員です。薬剤師も同様にコメディカルの仲間ですから、職種としての立ち位置が近く、連携もとりやすいのが特徴です。
国家試験の合格率はどれくらい?
管理栄養士の国家試験は、毎年3月に行われます。
直近では、令和7年3月2日に第39回の試験が実施されました。
- 受験者数:16,169名
- 合格者数:7,778名
- 合格率:48.1%(第39回、令和7年実施)
(出典:厚生労働省『第39回管理栄養士国家試験の合格発表について』)
合格率は約48%と、薬剤師国家試験の70%前後と比べると低く見えます。
ただし、これは「栄養士として実務経験を積んでから受験する方」も含まれた数字です。
管理栄養士養成課程(4年制大学)を卒業した方に絞ると、合格率はもう少し高くなる傾向があります。
薬剤師国家試験の合格経験があるからといって、管理栄養士の試験が簡単になるわけではありません。栄養学・臨床栄養学・食品衛生学など、専門領域が異なるため、しっかり学び直す必要があります。
受験するにはどんな条件がある?
薬剤師が管理栄養士の試験を受けるためには、管理栄養士養成施設(4年制大学)に改めて入学・卒業する必要があります。
薬剤師資格があるからといって、試験の一部が免除されたり、受験資格が短縮されたりする制度はありません。
受験資格のルートは以下の2つです。
- ルートA:管理栄養士養成施設(4年制)を卒業する → 卒業年度から受験可能
- ルートB:栄養士養成施設を卒業し、一定の実務経験を積む(修業年限2年なら3年以上の実務経験など)
社会人として働きながら目指す場合、大学に通う時間の確保が最大の課題になります。
大学によっては編入制度を設けているところもあるので、まずは各大学の入試要項を確認してみるとよいでしょう。
薬剤師が管理栄養士を目指す具体的な方法

では、実際にどうやって取得するのか、もう少し具体的に見ていきましょう。
仕事を続けながら取得できる?
薬剤師として働きながら管理栄養士を目指すのは、正直に言うと、かなりハードルが高いです。
それでも、いくつかの方法が考えられます。
- 夜間・通信対応の大学に編入する(ただし管理栄養士は通信だけでは取得不可)
- 一定期間休職・短時間勤務にして大学に通う
- パートタイム薬剤師として働きながら昼間の大学に通う
管理栄養士養成課程では、学内での実習や臨地実習(病院・施設での実習)が必須です。
そのため、完全在宅・通信のみでの取得は現実的ではない点に注意が必要です。
大学によっては、すでに4年制大学を卒業している方向けの「3年次編入」や「2年次編入」を実施しているところがあります。薬学部(6年制)を卒業していれば、大学院進学ではなく管理栄養士養成課程への編入という選択肢も検討できます。ただし、募集定員が少ない場合が多いため、早めに調べることをおすすめします。
学習に必要な時間と費用の目安
取得に向けて現実的なプランを立てるために、時間と費用の目安を知っておきましょう。
- 在学期間:4年(編入の場合は2〜3年程度)
- 学費の目安:国公立大学なら年間54万円前後、私立大学なら年間150万円〜200万円程度(大学によって異なる)
- 国家試験の勉強時間:一般的に500〜1,000時間程度が目安とされる
薬学部6年間に加え、さらに大学4年(または編入で2〜3年)かかることを考えると、ダブルライセンス取得には最低でも8〜10年の養成課程が必要です。
長期戦になることを覚悟した上で、しっかりとしたキャリアビジョンを持って臨むことが大切です。
栄養に関する「なかつぎ」資格も活用できる
「今すぐ大学に通うのは難しい」という方には、管理栄養士の取得を目指しながら、関連する民間資格を活用する方法もあります。
- NR・サプリメントアドバイザー:食品・サプリメントの知識を体系的に学べる資格
- NST専門療法士:栄養サポートチームの専門家として認定される資格(医師・看護師・薬剤師・管理栄養士など多職種が取得可能)
- 栄養サポートに関する認定薬剤師制度:薬剤師としての専門性を高める研修プログラム
これらの資格は管理栄養士の代わりにはなりませんが、栄養の知識を深める「入口」として役立つでしょう。
ダブルライセンスが生む3つの強み

薬剤師と管理栄養士、この2つを掛け合わせると、どんな強みが生まれるのでしょうか。
現場で感じる3つのポイントをまとめました。
薬と食の「橋渡し」ができる専門家になれる
薬剤師として働いていると、「薬と食事の相互作用(食薬相互作用)」について患者さんに説明する場面が多くあります。
たとえば、
- ワルファリン(抗凝固薬)とビタミンK含有食品(納豆・緑黄色野菜など)の組み合わせ
- カルシウム拮抗薬(血圧の薬)とグレープフルーツジュース
- 鉄剤とタンニン(お茶・コーヒー)の相互作用
これらは薬剤師なら一通り説明できますが、管理栄養士の視点が加わると、食事全体のバランスや調理法まで踏み込んだアドバイスが可能になります。
「今日の夕飯はどう工夫すればいいか」という、より生活に近い指導ができるわけです。
「薬を出すだけ」から「薬と食で健康を守る専門家」へ——この視点の広がりが、患者さんからの信頼度を大きく変えます。
NSTで薬剤師×栄養士の両方の立場で関われる
病院に勤める薬剤師なら、NST(栄養サポートチーム)への参加経験がある方もいるでしょう。
NSTとは、患者さんの栄養状態を改善するために医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などが連携するチーム医療の一形態です。
通常、NSTでは薬剤師と管理栄養士はそれぞれ別々の役割を担います。
しかしダブルライセンスを持つと、
- 薬剤師として:輸液の処方設計、薬と栄養剤の相互作用チェック、経腸栄養剤の選択支援
- 管理栄養士として:栄養アセスメント(栄養状態の評価)、栄養管理プランの作成、食事形態の提案
という両方の専門知識を持つ人材として、チーム内で独自のポジションを確立できます。
多職種連携の現場では「薬と栄養の両方がわかる人」がいると、話がスムーズに進むことが多いです。
予防医学・ヘルスケア分野でも活躍できる
近年、医療は「治療」から「予防」へと重心が移りつつあります。
生活習慣病の予防や介護予防において、食事と薬の知識を組み合わせた専門家へのニーズが高まっています。
- 特定保健指導(積極的支援・動機づけ支援)での栄養・服薬両面からのアドバイス
- 健康増進・予防医学に特化した薬局やクリニックでの活躍
- フレイル(加齢による体・心・脳の衰え)予防プログラムへの参加
「薬だけでなく食事からも健康を守りたい」という患者さんのニーズに、ひとりで応えられる薬剤師——そんな存在は、これからの時代にますます求められるでしょうか。
特定保健指導とは、40〜74歳の方を対象に、メタボリックシンドロームの予防・改善を目的として行われる保健指導です。生活習慣病リスクが高い方に対し、食事・運動・行動変容を促すための支援を行います。薬の適正使用と食事指導を同時に行えるダブルライセンス保持者は、この分野でも特別な強みを発揮できます。
ダブルライセンスで広がる就職先とキャリア

せっかく取得するなら、どんなフィールドで活かせるのかも知っておきたいですよね。
活躍できる場所を具体的に見ていきましょう。
調剤薬局・健康増進支援薬局での活躍
薬機法の改正により、「健康サポート薬局」は「健康増進支援薬局」という名称に変更される予定です(令和7年5月改正以降、順次施行)。
この制度のもと、薬局は地域住民の健康づくりの拠点として、より積極的な役割を求められています。
(出典:地域連携薬局、健康増進支援薬局について)
- 服薬指導と同時に栄養相談ができる「ワンストップ対応」が可能になる
- 地域住民からの信頼度・来局数アップにつながる
- 管理職や店舗責任者としてのポジションをつかみやすくなる
「この薬局に行けば薬も栄養も相談できる」という差別化は、競争が激しい薬局業界においてとても大きな武器になります。
病院・介護施設でのキャリアパス
病院や介護施設では、ダブルライセンスを持つ薬剤師は非常に貴重な存在です。
- 病院薬剤師:NSTメンバーとして薬と栄養の両面から患者ケアに関与できる
- 老人保健施設・特別養護老人ホーム:フレイル予防や低栄養対策に薬剤師の視点を加えて貢献できる
- 訪問診療・在宅医療:在宅患者の服薬管理と食事管理を同時にサポートできる
高齢化社会が進む日本において、在宅医療や介護の現場での需要は年々高まっています。
ダブルライセンスを持つ薬剤師は、医療と生活を結ぶ架け橋として、特別な存在感を発揮できます。
NST(栄養サポートチーム)に関わる資格として「NST専門療法士」があります。薬剤師も取得可能で、栄養管理の専門知識をさらに深めたい方にはおすすめのステップです。詳細は日本臨床栄養代謝学会のウェブサイトをご確認ください。
企業・独立・フリーランスという選択肢
薬剤師としての経験と管理栄養士の資格を組み合わせると、企業からのニーズも生まれます。
- 製薬会社・健康食品メーカー:商品開発・品質管理・学術情報部門などで「薬と栄養の両方がわかる人材」として採用されやすい
- サプリメントアドバイザリー:エビデンスに基づいた栄養補助食品のコンサルティング
- セミナー講師・ライター:医療・予防医学に関する情報発信、セミナーの企画・登壇
- フリーランス薬剤師:栄養指導も含めた独自サービスの展開
「薬剤師+管理栄養士」という組み合わせは、日本でも非常に希少な存在です。
希少性があるからこそ、ニッチな分野で頭角を現しやすいという側面もあります。
健康食品・機能性食品・サプリメント市場は年々拡大しています。薬剤師の薬学知識(薬との相互作用・安全性評価)と管理栄養士の栄養学知識を兼ね備えた人材は、メーカーの品質管理部門や学術情報部門からも高い評価を受けやすい存在です。給与面でも、一般的な薬剤師や管理栄養士よりも交渉力が高くなる傾向があります。
取得するか迷っている方へ

「取りたい気持ちはあるけど、本当に必要?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、判断のポイントを整理してみます。
こんな薬剤師に向いている資格
管理栄養士のダブルライセンスは、すべての薬剤師に必要というわけではないです。
でも、こんな方には特に向いている資格でしょう。
- 「薬だけでなく、食事や生活習慣まで含めて患者を支えたい」と思っている方
- 病院での多職種連携にもっと深く関わりたい方
- 地域包括ケアや在宅医療の現場で幅広く活躍したい方
- 将来的に独立・起業・フリーランスを視野に入れている方
- 予防医学・ヘルスケア分野に転職・移行を考えている方
「なぜ取るのか」というキャリアビジョンを明確にしてから動き出すのが、遠回りに見えて実は一番の近道です。
取得前に確認しておきたいこと
管理栄養士取得を検討する前に、いくつか確認しておくとよい点があります。
- 現在の職場が学業との両立を支援してくれるか(休職・時短勤務の制度があるか)
- 通える範囲に管理栄養士養成課程のある大学(編入できるところ含む)があるか
- 取得後にどんな職場・役割で活かしたいかのイメージがあるか
- 学費・生活費など、経済的な準備はできているか
管理栄養士の取得は「薬剤師の延長線上」にはありません。まったく別の養成課程が必要であり、時間・費用・体力のすべてを要します。焦らず、長期的な計画で進めることをおすすめします。
ダブルライセンス保持者が実際に活躍している場面
ダブルライセンスを持つ薬剤師が現場でどう活躍しているか、具体的なシーンをイメージしてみましょう。
| 活躍の場 | 具体的な場面 | ダブルライセンスの強み |
|---|---|---|
| 調剤薬局 | 糖尿病患者への服薬+食事指導 | 薬と食事を一括サポート |
| 病院NST | 術後患者の栄養管理カンファレンス | 薬と栄養の両面から意見できる |
| 在宅医療 | 訪問时の服薬+低栄養チェック | 多くのサポートを一人で対応 |
| 健康食品企業 | サプリ成分と薬の相互作用チェック | 専門的かつ独自の視点を提供 |
| 介護施設 | フレイル予防の食事プログラム立案 | 薬の減量と栄養改善を同時提案 |
こうした場面で、ダブルライセンスを持つ薬剤師は「代替のきかない存在」として認識されることが多いです。
たとえば糖尿病の患者さんへの指導を考えてみましょう。
薬剤師の立場では「SGLT2阻害薬の服用中は糖質を急に減らさないように」と伝えられます。
さらに管理栄養士の知識があれば、「1日の糖質の目安はどのくらいか」「主食はどう変えるか」「おやつはどんなものが向いているか」まで、生活レベルで踏み込んだ指導ができます。
これは患者さんにとって、とても心強いサポートになるはずです。
ダブルライセンスを目指す前のロードマップ

最後に、具体的なステップをまとめてみます。
「まず何から始めるか」がわかると、行動に移しやすくなりますよ。
今すぐできる小さな第一歩
大学への入学はすぐに決断できなくても、今日から始められることはたくさんあります。
- 管理栄養士養成施設(4年制大学)のパンフレットを取り寄せる
- 勤務先の社会保険労務士や人事部に「社会人入試・編入時の休職制度」を確認する
- NR・サプリメントアドバイザーなどの関連資格を取得して栄養の基礎を固める
- 栄養学の基礎テキスト(管理栄養士国家試験用のもの)を読んでみる
小さな一歩が、大きなキャリアの転換点になることがあります。
まず「知る」ことから始めましょう。
管理栄養士以外のキャリアアップも視野に入れて
もし「管理栄養士の取得は今の自分には難しい」と感じる場合、薬剤師としてのキャリアを深める方向も選択肢のひとつです。
- 認定薬剤師・専門薬剤師の取得でキャリアアップ
- がん領域・感染症・緩和ケアなど専門分野に特化した薬剤師を目指す
- 薬局管理者・経営側として薬局運営に関わる
ダブルライセンスだけがキャリアアップの手段ではありません。
大切なのは、「自分がどんな薬剤師でありたいか」というビジョンを持ち続けることです。
迷ったら似た立場の人に話を聞こう
実際にダブルライセンスを持つ薬剤師の話を聞くのが、一番リアルな情報源です。
- 薬剤師向けのSNS・コミュニティで情報収集する
- 転職エージェント(薬剤師専門)を活用して、ダブルライセンス保持者の求人実態を調べる
- 管理栄養士養成校のオープンキャンパスに参加してみる
自分ひとりで悩まずに、情報を集めながら判断することが、後悔のない選択につながります。
まとめ:薬剤師×管理栄養士ダブルライセンス

薬剤師と管理栄養士のダブルライセンスは、「薬」と「食」の両方の専門家として患者さんを支えられる、非常に希少で価値のある資格の組み合わせです。
取得には管理栄養士養成施設(4年制大学)への入学が必要で、薬剤師資格があっても試験の一部が免除されるといった特典はありません。
大学4年間(編入なら2〜3年)と国家試験の準備を含めると、長期的な計画が求められます。
ただし、その分だけ希少性は高く、調剤薬局・病院NST・在宅医療・企業・フリーランスなど、幅広いフィールドで独自のポジションを築けます。
特に「健康増進支援薬局」の普及や、地域包括ケアの推進を背景に、薬と栄養の両面から関われる専門家へのニーズは今後も高まる見通しです。
まずは「なぜ取りたいのか」「取ってどう活かしたいのか」を自分なりに整理することから始めてみてください。
その答えが見えたとき、きっと行動に移す力も湧いてくるはずです。